財務3表を比較分析するシリーズ。
今回は日立御三家の一角、日立化成をTOBで買収した昭和電工と、日立化成株の51%を保有していた日立製作所を比べてみます。
日立製作所は2021年3月期の決算短信、昭和電工は2020年12月期の有価証券報告書の財務諸表(BS,PL,CS)から財務分析を行いました。
【日立製作所】BSとPL
BS関連
総資産:11兆8,529億円(前年比+19.4%)
流動比率:129.3% | 固定比率:167.6% | 固定長期適合率:93.5%
PL関連
売上高:8兆7,292億円(前年比-0.4%)
営業利益:4,952億円(同-25.2%)
親会社株主に帰属する当期純利益:5,016億円(同+472.6%)
株式の51%を保有していた日立化成の売却益などにより、大幅な増益を記録。一方、BSサイドでは日立化成の売却による資産の減少はあったものの、ABBのパワーグリッド事業買収やAstemo設立に伴う統合の影響でサイズアップ。
【昭和電工】BSとPL
BS関連
総資産:2兆2,036億円(前年比+104.7%)
流動比率:175.3% | 固定比率:364.8% | 固定長期適合率:100.1%
PL関連
売上高:9,737億円(前年比+7.4%)
営業損失:▲194億円(同-116.1%)
親会社株主に帰属する当期純利益:▲763億円(同-204.4%)
年間の売上高を超えるレベルの有利子負債を調達し、日立化成をTOBにより約9,600億円で買収、BSサイズが一気に倍に。PLサイドはCOVID-19による需要減や、のれん償却費等(約280億円)もあり、営業赤字&最終赤字に転落。
なお、買収した日立化成は2020年10月に昭和電工マテリアルズに商号変更しています。
BSとPLの比較
日立製作所の方が圧倒的に規模が大きいのが分かります(業界が違うので比較する意味はあまりないですが)。ただ、BS全体に占める有利子負債の割合は昭和電工の方が大きく、強い信念を持って日立化成の買収に踏み切ったことが想像されます。
ROE分析(デュポンシステム)
日立製作所は、利益率はそこそこですが財務レバレッジを利かせており、回転率もそこそこあるため、ROEは15%に達しており日本企業としては資本効率が高い部類*。
一方昭和電工は、日立化成買収のために調達した有利子負債の影響で財務レバレッジが日立よりもさらに高いものの、今期は赤字転落のためROEもマイナスの値に。
*「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」(伊藤レポート)
CS分析
日立製作所は、本業でキャッシュを稼ぎつつ、ABBのパワーグリッド事業買収と日立ハイテクの完全子会社化のためキャッシュを使い、パターン④のCS。
昭和電工は本業で稼いだキャッシュと長期借入金をもとに、日立化成を買収。パターン③のCS。
まとめ
今回は、日立御三家の一角である日立化成を売却した日立製作所と、その日立化成を買収した昭和電工の財務三表をざっくり見比べました。
日立化成を売却しABBのパワーグリッド事業を買収した日立製作所のような超大企業と、自社サイズより大きな額で企業買収を行なった昭和電工。当期最終利益ベースでは明暗分かれましたが、各社のビジネス判断が今後どのように財務三表に影響してくるか来期以降も気になります。
興味がある方は、各社の財務三表詳細もチェックしてみてください。
株式会社日立製作所 決算短信(2021年3月期)
昭和電工株式会社 有価証券報告書(2020年12月期)
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(参考文献)
新版 財務3表図解分析法(國貞克則)
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(脚注)
日立製作所はIFRSを導入しているため、固定資産は「非流動資産」、固定負債は「非流動負債」、純資産は「資本」から読み取っています。また、売上高は「売上収益」から読み取っています。なお、本分析は財務三表から企業の財政状態、経営成績を大まかに把握するためのものであり、四捨五入の関係で端数が完全一致しない場合があります。
本エントリーの内容は、執筆時点の情報に基づいています。
また本分析は、特定の投資等を推奨するものではありません。本ブログを参考にした投資等によるいかなる結果についても、筆者は責任を負うことはできません。投資等は自己責任でお願い致します。
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