武田薬品 vs アステラス製薬【財務分析・製薬・2021年3月期】

財務分析

財務3表を比較分析するシリーズ。

今回は、製薬業界の国内上位2社である武田薬品工業株式会社(以下、「武田薬品」)とアステラス製薬株式会社(以下、「アステラス製薬」)を見比べます。

2021年3月期の各社財務諸表(BS,PL,CS)から財務分析を行いました。

【武田薬品】BSとPL

BS関連
総資産:12兆9,123億円(前年比+0.7%)
流動比率:153.0% | 固定比率:197.2% | 固定長期適合率:91.6%

PL関連
売上高:3兆1,978億円(前年比-2.8%)
営業利益:5,093億円(同+407.1%)
親会社株主に帰属する当期純利益:3,760億円(同+749.9%)

2019年のShire社買収による統合シナジー(コストダウン)と、武田コンシューマーヘルスケア株式会社の株式譲渡により利益が大幅に上昇しています。

【アステラス製薬】BSとPL

BS関連
総資産:2兆2,736億円(前年比-1.8%)
流動比率:147.3% | 固定比率:101.1% | 固定長期適合率:83.3%

PL関連
売上高:1兆2,495億円(前年比-3.9%)
営業利益:1,361億円(同-44.2%)
親会社株主に帰属する当期純利益:1,206億円(同-38.3%)

主力製品の売上は伸びている一方、独占販売期間満了や販売契約終了と製品の影響で売上は微減。さらに、開発中止や計画見直しによる減損が響き、大幅な減益となりました。

BSとPLの比較

武田薬品は、2019年に巨額の有利子負債と引き換えにShire社(アイルランド)の買収。BSサイズが一気に膨らみました(のれんが4兆円を超えています)。

一方、アステラス製薬は、有利子負債ゼロの無借金経営が続きます。新薬は開発から販売までに10年近く時間がかかり、成功確率も2〜3万分の1。返済タイミングが読めないため、新薬開発目的の資金は有利子負債よりも増資など「返さなくてもいい」資金で賄うのが定石です。

ROE分析(デュポンシステム)

武田薬品は、有利子負債で財務レバレッジを利かせ、また利益率もそれなりに高いものの、大きすぎるBSにより回転率が下がり、ROEは7.60%止まり。

アステラス製薬は、財務レバレッジと利益率は武田薬品より低いものの、総資本回転率が武田薬品ほど悪くないため、ROEは日本企業の一つの目安である8%を上回っています*。

*「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」(伊藤レポート)

CS分析

武田薬品は、本業で稼いだキャッシュと事業の売却で得た資金を、社債の償還と長期借入金の返済に充てているパターン②のCS。

アステラス製薬は本業で稼いだキャッシュをもとに、有形固定資産と無形資産の取得、さらに社債や短期借入金の返済も進めている、パターン④のCS。

まとめ

今回は、製薬大手の武田薬品アステラス製薬の2021年3月期の財務三表をざっくり見比べました。

武田薬品はShireの買収でBSサイズが膨らみ、国内2位のアステラス製薬の2.5倍以上の売上規模になっています。世界の背中も見えてきた武田薬品のこれからの戦略に注目です。

また、少子高齢社会における医療費削減に向け、薬価も上がりにくくなることが予想される日本国内においては、国内2位以下トップクラスの製薬メーカーも次の一手が気になります。

興味がある方は、各社の決算短信から詳細もチェックしてみてください。

武田薬品株式会社 決算短信(2021年3月期)
アステラス製薬株式会社 決算短信(2021年3月期)

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(参考文献)
新版 財務3表図解分析法(國貞克則)

(脚注)
本分析は、2021年3月期の各社決算短信の数値を使用しています。2社ともにIFRSを導入しているため、固定資産は「非流動資産」、固定負債は「非流動負債」、純資産は「資本」から読み取っています。また、売上高は「売上収益」から読み取っています。なお、本分析は財務三表から企業の財政状態、経営成績を大まかに把握するためのものであり、四捨五入の関係で端数が完全一致しない場合があります。

本エントリーの内容は、執筆時点の情報に基づいています。
また本分析は、特定の投資等を推奨するものではありません。本ブログを参考にした投資等によるいかなる結果についても、筆者は責任を負うことはできません。投資等は自己責任でお願い致します。

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