アサヒvsキリン【財務分析・酒類・2020年12月期】

財務分析

財務3表を比較分析するシリーズ。

今回は酒類メーカー業界の国内上位2社、アサヒグループホールディングス(以下、「アサヒ」)とキリンホールディングス(以下、「キリン」)を見比べます。

2020年12月期の各社財務諸表(BS,PL,CS)から財務分析を行いました。

【アサヒ】BSとPL

アサヒといえば主力の「スーパードライ」をはじめ、酒類の国内トップメーカーの一角です。

総資産は、前年比1兆2,986億円増(+41.3%)の4兆4,394億円。流動比率41.7%、固定比率247.4%、固定長期適合率134.7%と、安全性指標はイマイチに見えますが、当期は豪州のCUB Australia Holdings Pty Ltdを1.1兆円で買収したことに伴い、のれんが大幅に増えているのが主な要因です。

売上高は前年比613億円減(-2.9%)の2兆278億円、営業利益が663億円減(-32.9%)の1,352億円、親会社株主に帰属する当期純利益が494億円減(-34.7%)の928億円となり、コロナの影響を受けているものの黒字は確保しました。

【キリン】BSとPL

キリンは、「一番搾り」など主力商品に加え、第3のビールである「本麒麟」が爆発的に売れています。

総資産は、前年比465億円増(+1.9%)の2兆4,594億円。流動比率117.5%、固定比率190.0%、固定長期適合率108.8%と、安全性指標は問題なし。

売上高は前年比918億円減(-4.7%)の1兆8,495億円、営業利益が152億円増(+17.3%)の1,029億円、親会社株主に帰属する当期純利益が123億円増(+20.6%)の719億円となりました。コロナの影響を受けトップラインは下がっているものの、徹底したコストカットが功を奏しボトムラインは増えた格好です。

BSとPLの比較

アサヒは当期に豪州CUB事業の買収に伴い、大幅にBSサイズを伸ばしていますが、PLのサイズと構造はキリンと似ているようです。その意味では、当期はキリンの方がよりスリムで効率的な経営をしたと言えるでしょう。

コロナの影響で外食が大ダメージを負ったものの、酒税の改正が宅飲みビール需要を後押しした模様。両社ともに黒字を確保しています。

ROE分析(デュポンシステム)

アサヒは、CUB買収により総資本回転率が大幅に下がったものの、財務レバレッジと利益率で取り戻し、ROEは6%台後半と日本企業としては比較的良好。

一方キリンは、財務レバレッジはアサヒと同程度、利益率はアサヒに劣りますが、総資本回転率が高くROEは日本企業の一つの目安である8%超え*。

*「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」(伊藤レポート)

CS分析

アサヒは本業稼いだキャッシュに加え、短期借入金と社債発行で調達した資金をもとに、大型の買収を実行。パターン③のCS。

キリンは本業で稼いだキャッシュを有形固定資産・無形資産の取得と長期借入金の返済に回しつつ、自己株式の取得や増配といった株主還元も進めて、パターン④のCS。

まとめ

今回は酒類メーカーの国内トップ2、アサヒキリンの2020年12月期の財務三表をざっくり見比べました。

アサヒは国内最大規模のM&Aを実施し、BSが一気にサイズアップしています。この買収が来期以降どれだけPLに影響してくるか非常に気になります。成功しても失敗しても、大型M&Aとその結果として教科書や参考書に載りそうです。

キリンは、海外展開については一部もしくは完全に見切りをつけて撤退した国もある一方、2019年にファンケルへの投資・提携をするなど多角化に舵を切っており、シナジーも生まれつつあります*。

*ファンケル、キリンHDの独自素材使ったサプリ発売へ(日経新聞、2020年12月2日)

対照的ではあるものの積極的な経営を進めている両社から今後も目が離せません。こうした経営判断が3年後、5年後、10年後にどのような結果をもたらしているか、今からとてもワクワクしますね。

興味がある方は、各社の財務諸表の詳細もチェックしてみてください。

アサヒグループホールディングス株式会社 有価証券報告書(第97期)
キリンホールディングス株式会社 有価証券報告書(第182期)

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(脚注)
2社ともにIFRSを導入しているため、固定資産は「非流動資産」、固定負債は「非流動負債」、純資産は「資本」から読み取っています。また、売上高は「売上収益」から読み取っています。なお、本分析は財務三表から企業の財政状態、経営成績を大まかに把握するためのものであり、四捨五入の関係で端数が完全一致しない場合があります。

(参考文献)
財務3表図解分析法(朝日出版、國貞克則)

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本エントリーの内容は、執筆時点の情報に基づいています。
また本分析は、特定の投資等を推奨するものではありません。本ブログを参考にした投資等によるいかなる結果についても、筆者は責任を負うことはできません。投資等は自己責任でお願い致します。

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